人類が絶滅してから、多少の混乱はあったものの、間もなく世界は安定的な状態になった。

そしてそれは、生物たちの冷静な対話によるものだった。

あ、こうかくと、まるで生き物たちが「言葉」を使ってお話し合いしたように思われちゃうかな。

人間たちと違って、ほかの生き物は言葉を使わないから、そんなにぽんぽんとはお話が進まないんだ。かといって、そのまま文章にかきおこしたら、すごく長くなっちゃうからね。

まあ、もののたとえで言葉を使っていると思ってよ。

うん、最初はやっぱり人間たちに頼りすぎていた生き物たちが困ったね。それも動物よりも植物の方が先に問題になったんだ。

意外だった?

人間たちが、なんというか、ひいきしていた葉っぱや根っこやくだものってねえ。

まずいんだ。とっても。

味のことじゃないよ。食べても食べても、力がでないんだ。中には、人間たち以外の生き物には、はっきり毒になるのもあったけど、生き物たちは、毒は避けるからまだいいんだ。それより困ったのは、食べても生きる力にならないのがほとんどだったんだ。

でね、そういう葉っぱや根っこやくだものは、とっっっっても面倒くさいんだよ。自分たちも周りも。葉っぱや根っこ やくだものたちは、こうやって育ててよっていうんだけどね、動物たちにはそんなこととても無理だったんだ。それで葉っぱや根っこやくだものたちも拗ねちゃって、引きこもったり逃げたりぐれたり。

そんなぐれた葉っぱや根っこやくだものたちの方が、頑張って残って落ち着いたけどね。うん、今ではみんなとうまくやっているよ。

そうそう、ぐれた葉っぱや根っこやくだものたちの面倒を見るとき大活躍したのがナマケモノたちだったんだ。面白いよね。

やっぱりいざというときに、秘められた力というのか、いいところがわかるもんだね。他の動物たちもナマケモノを見直していたし、葉っぱや根っこやくだものたちもとっても慕っていたなあ。

 

植物たちは寿命が短いから、真っ先に困って、真っ先に変わっていったんだけど、動物たちはそうはいかないから、結構時間がかかったよ。

人間たちの習性を利用して生きていた動物たちは最初途方に暮れていたよ。なにしろその日のうちから食べるものもなかったし、食べ物の探し方もわからなかったし、他の場所へ行く方法もわからなかったし。何回も大騒ぎになったよ。

生き物たちは、そんな動物たちを依存性生存維持障がいと呼んで、対策委員会をつくったんだ。委員長はクマネズミだったよ。てきぱきとみんなに指示してとっても頼りになったなあ。それにね、クマネズミってキレキャラだからね。一度キレるとなかなか収まらないから、大きな動物もびくびくして素直になったんだよ。

こうかくと、人間たちのせいと思っちゃうかも知れないけど、こればかりはお互い様だから、気にする必要ないよ。依存性生存維持障がいの動物たちも、人間たちを利用していた し、人間たちも依存性生存維持障がいの動物たちを利用していたし、そういうもんだよ。

そうだなあ、みんな長い間かけて、大きくなったり、小さくなったり、目の場所が変わったり、体の形が変わったり、色々工夫してなんとか折り合いをつけていったよ。

 

生き物たちの間で賛否両論だったのが、人間たちが残したいろんなつくり物だね。

人間たちの巣ってね、とっても大きいし堅いし住みにくいし、壊しちゃえという意見が多かったよ。でも中には、人間たちの記念として残しておこうという意見もあったし、せっかくだから有効活用しようという意見もあったし。

まあ結局、何回か地面が震えたり嵐が来たり大雪が来たり雷が落ちたりして、ほとんどなくなったけど。当たり前かもしれないけど、後にできたものから先に壊れていったから、古くからあった、木とか石でできた巣は残っているよ。生き物たちにとっても使いやすいしね。

新しくできた巣はものすごくでっかかったから、壊れるときもものすごく周りも壊れてね。有効活用していたら危なかったねとちょっと話題になったよ。どうせ新しい巣はものすごく不便だったから、誰も使おうとしなかったけど。

 

それとなんだっけ。なんか地面の中を通っていた象の鼻みたいなでっかい管とか、あちこちにひっかかっていた蜘蛛の巣みたいな太い線とか、地面にねっころがっていた大きな蛇みたいな長い板とか、さすがに邪魔だったよ。

この辺のやつは、植物が力を合わせて片付けたっけ。特に竹は張り切っていたなあ。それまでちょっと竹と仲が悪かった、山の木たちと話し合って、人間たちがつくった邪魔なものを次々とぶっ壊す代わりに、山にはあまり行かないと約束してね。竹も張り切りすぎて、枯れずに何回も花を咲かせたっけ。

たぶん、人間たちの残りかすで一番みんなが心配していたのは、いろんな燃えかすとか灰とかだよね。

ほんとあちこちにあったし、お空にもたくさん漂っていたし、地面や川や海にも混じっていたし。こういうのは、お日様が音頭を取って、ちっちゃな生き物や海の生き物や植物たちがなんとかしたよ。結構犠牲もでたけど、逆に大喜びした生き物もいたし。

 

またなにか気にしているでしょ。

うーんと、うまくかけないけど、よくあることだから。生き物みんな、糞をしたりなにかを壊したりなにかをつくったりするものだから。

人間たちだけが特に悪いというわけじゃないよ。

というか、いいとか悪いとかいうと、他の生き物たちが怒るか笑うか呆れるか、まあだいたいは意味がわからなくて聞き流しちゃうと思うけど。

それに、どうせ人間たち、絶滅しちゃったしね。

あ、そうか。なんで絶滅したのか、知らないよね。

たぶん、うすうすわかっているのじゃないかな。

戦争?ううん。人間たちは見事に戦争というものをなくしたよ。

伝染病?うーん、ちょっと違うかな。でも伝染病に近いかも。

 

人間たちは、一人ぼっちじゃあたぶん猫にも負けるよね。

だから群れをつくって、みんなで力を合わせて生きてきたんだよね。役割分担をして、役割に合った道具をつくって、そして今の先を考えることを始めて。

国というものをつくって会社とかいろんな群れの形をつくって、群れを束ねるためのいろんな考え方をつくって。

人間たち以外の生き物も、群れをつくって生きていくことが多いけど、やっぱり群れの大きさには限界があるから、群れがいくつもできちゃうんだよね。そして別々の群れがぶつかると争いになっちゃう。人間たちもおんなじだったね。

 

でも、ここからが人間たちのすごいというか、面白いというか、違ったところだったよね。

群れのリーダーとか住んでいた場所とかじゃなくて、今の先の考え方で群れをつくっていったね。だから今の先の考え方がおんなじだったら、群れがどんどん大きくなっていった。それ自体は良かったのだけど、こんどは今の先の考え方の違いが争いになっていっちゃった。

群れのみんなが生きていくのに、誰かがなにかをとってきて誰かが集めて誰かが分けてというのはおんなじなんだけど、やっぱり群れのみんながみんな喜ぶというのは難しいよね。

どうしても不公平とか無駄とかやっかみとかがでてきちゃう。どうしても群れの決まりとは違うやり方で生きていく人間たちもでてきちゃう。どうしても自分が取ってきたなにかを他の人間たちに分けるのを嫌がる人間たちもでてきちゃう。

 

ここでまた人間たちは面白いことをやったね。

全部の人間たちを一人ひとり直接つなげちゃうなんて。

あれ、なんて呼んでいいのかよくわからないけど、人間たちがつくった言葉で、天網恢恢疎にして漏らさずというのがあるよね。天網でいいんじゃないかな。

その天網で、遠くにいてもお話できるようにしたり、おんなじものを見ることができるようにしたり、ものを送ることができるようにしたり。いろんな道具もつなげて、人間たちのちっちゃな力を大きくしたり。

見る力、聞く力。手の力、足の力。覚える力、考える力。感じる力、感情の力。

そうして、世界中の人間たちが考える今の先をおんなじにしていって、世界中の人間たちがいつどこで誰がなにをなぜどうやっていたかをみんながすぐにわかるようにしていって、世界中の人間たちが自分から進んでいつどこで誰がなにをなぜどうやっていたかをみんなに知らせたがるようにしていって、今の先の考え方の違いをなくすようにしていって、決まりとは違うやり方ができないようにしていって、気持ちまでおんなじにしていったね。

このやり方、面白い呼び方をしていたね、確か。まったくおんなじやり方をいろんな呼び方で。

教え   拡散   友達   規則   量子

放送   為替   神   いいね   周波数

平和   政治   尊敬   お金   科学

スキ   思想   通信   お布施

思いやり   同期   主義   交換   言葉

遺伝子   規格   共感   標準   報道

愛   権利   ほっこり

みんなおんなじことなのに、これだけいろんな呼び方をすると、確かにこのうちのどれかは、どんな群れにでも受け入れられるよね。

 

一人がみんな、みんなが一人と直接つながるようになったから、一人のほしいもの、とどけたいもの、きもちがみんなに伝わって、みんながなにかしらはたらきかけるようになった。

みんながおんなじ考え方をするようになったんだから、とうとう人間たちは戦争しなくなった。

国とか会社とかお店とか工場とか、細かい群れをつくる必要がなくなって、全部消えちゃった。

群れの中とか別の群れの間とかをやり取りするために必要だった、お金とかリーダーとかがなくなっちゃった。

すごいことだよ。

人間たちは、人間たち全部で一つの生き物になったんだ。一つの生き物だから強いし、けんかしないし、動く必要もないし、働く必要もない。

 

それまでは道具を通じてつながっていたのだけど、とうとう人間たちは人間たちの中になにか埋め込んで、道具がなくても、使えなくてもつながるようにしたんだ。

一人ひとりの間の細かい違いは、人間たちが自分たちを真似してつくった、自分で考える道具にもつなげて、一番ただしい答えを出すようにしたんだ。

 

そのとたん、人間たちが絶滅したんだ。

 

びっくりしたなあ。

みんなをつなげる仕組みが動きだしたかと思ったら、人間たちがみんな消えちゃったんだもん。

そう、ちょうど蟻が一歩動くぐらいの間に。

亀の言葉では、人間たちはあっという間に世界中に広がったかと思ったら、あっという間もなくみんな消えちゃったという感じだったって。

これは長い間かけて、人間たちを研究した雀の推理だけど。

どうもつなげた瞬間に、誰かがもう、今の先、自分はいらないんじゃないかと思って、それが人間たちみんなに広がって、正しい答えを出す道具が解決した結果、みんなが消えたんじゃないかって。

 

あ、ごめん。

人間たちが絶滅したんだったら、なんでこの言葉を読めるのかって説明していなかったよね。

あのね、おっちゃん。

おっちゃん、いつか嬢ちゃんへお話したときに、人間たちに可愛がられたうさぎは、天使うさぎになるっていっていたよね。

あれ、ほんとなんだ。

ううん、人間やうさぎだけがそんな力があるということじゃない。どんな生き物でもほかの生き物になにか想いを残した生き物は、天使みたいに残るんだ。

背中を見てごらん。あ、うさぎじゃないから、自分で背中を見ることできないか。

腕を背中にまわしてごらん。ほら、あった。翼が。

慣れると自分で動かすことができるからね。

それよりも、周りを見たら、きっとすぐ見つかるよ。

翼がある嬢ちゃんが。

 

あと、おっちゃんが喜ぶことがあるんだ。

おっちゃんのぼっちゃん。なんか洒落みたいだね。

言葉を話せなくて、言葉がわからなくて、道具を使えなくて、自分ひとりでは食べることもできなかったぼっちゃん。

元気だよ。

不思議だねえ。ぼっちゃんみたいな人間たちは、つながっても消えなかったんだ。たぶん、ただしい答えがただしくなかったからじゃないか、って雀がいっていた。

そしてね、ぼっちゃんみたいな人間たちは、ほかの生き物たちにとっても可愛がられているんだ。動物でも植物でも。お肉を食べる動物にも葉っぱを食べる動物にも。

なんだか、どんな生き物にとっても、すごくかわいい自分のこどもみたいに感じるらしくて、みんな喜んでお世話しているよ。

たぶん、人間たちが絶滅するのに備えて、少しずつ増えてきたんじゃないかな。

だから、生き物たちは人類とは呼ばないで、ぼっちゃんみたいに消えなかった人間たちを、こう呼んでいるよ。

天使って。

 

僕が天使うさぎになったのは、とっても暑い夏だったね。

おっちゃんがこれを読んでいるときもやっぱりすっごく暑い夏でしょ。

みんな待っているよ、おっちゃんが大好きで良く遊びに行った海で。

ぼっちゃんもいるよ。

だからさ。

早く翼に慣れて飛んできてよ。嬢ちゃんと一緒に。待っているからね。

 

とっても暑い夏の日に

おっちゃんへ

ぷーくんより

 

追伸

もしもでいいから、その辺にポッキーが残っていたら、飛んでくるときに持ってきて。